locus -emotion materials-

あとがきとちょっとした解説とか

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僕も結構そう言うタイプの人の一人でもあるのですが、
文庫本等で、「あとがき」を読んで大まかな内容だけ見てから、
この本は読むに値するか、この本は自分に合いそうか、みたいなことを考えて本を買う人も多いようで。

そんな駄文で始めつつ、まだ未見の人にも楽しんでいただけるように、
また、既にご覧下さった方にも、また違う見方を楽しんでいただけるように色々と。

あ、あと高校生が本読んだり話聞いたりしたモノなので、あまり内容の信憑性については期待しないようにっ!

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今作「locus -emotion materials-」は、PP07で発表した「tree -emotion graphics-」の続編としての作品です。
treeでは「生命の輪廻」をテーマに制作しましたが、今作は「心身問題」をテーマに取り上げ、そこから構成等を考えていきました。
因みに、この「emotion」シリーズは三部作を予定しております。次作で一応連作完結、という形になります。

正直、treeから連作化する、という構想は作り始めた当初は全く考えてなくて、
テーマもただ、「数学、科学から見る側を陶酔させてみたい」、という非常にシンプルなものでした。
(PP06で出したmath.swfとコンセプトはあまり変わらない感じ)
製作中に色々と影響されるものがあって、そこから更に広範囲で深い、この「心身問題」と言うテーマに徐々に切り替えていきました。
なので最初の方などは余りテーマの核心とは密接に関わっていなかったりとかしますが…。

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さて、この「心身問題」という言葉は中々馴染みの薄いものかと思われます。自分も実際ちょっとかじっただけだから深くはまだ良く分からない。

簡単に説明すると、「心身問題」とは心と体(脳)の関係を説明する哲学の一つで、
何故(一般的に非物質的であると考えられている)「心」が、物質的な「肉体」に影響を与えることが出来るのか、
そしてまた何故その逆も可能なのか、を説明する問題です。

現代、科学の発達したこの世界では、様々な、まさにミクロからマクロまでの我々を取り巻く世界を知ることが出来ます。
しかし、我々自身が、何故このように考え、
その思考が例えばキーボードを打つ指へ、マウスを持つ手の平へと肉体に反応させる事が出来るのかは未だ明かされず、
また答えの出る筈が無いであろうこと――つまり我々は自分を取り巻く世界は分かっていても、自分自身については分かっていないことが、
非常に興味深いと同時に、我々は果たして「存在」しているのだろうか、と考えると非常に不思議な感覚に捕らわれます。

この「心身問題」は、心身の「身」が「脳」に置き換えられることによって、様々な学問を発達させる礎となりました。
生物学から始まり、心理学、言語学、コンピューターサイエンス、物理学、数学、と…
そう考えると、現代、我々がこうした生活を送っているのは、「心身問題」に対する人類の長い「問い掛け」があったからこそではないでしょうか。

その諸学問の発展と、「心身問題」に対する「問い掛け」、この二つの軌跡(=locus)を中心に、展開され、収束されるような作品を目指しました。

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では、各シーンの内容について少し。

前半は、「心身問題」に対しての「問い掛け」から生まれ出た、
我々が今ここに居るために欠かせない科学分野(=素材、materials)をそれぞれ抽象化、3D化した物を中心に展開していきます。
生物学、物理学、解析幾何学、ミクロレベル・量子に関する学問系(量子力学、原子論云々)を考えていたのですが、
量子系統の3Dにも何故か座標系や方程式が入り混じってたり何か色々やっちゃった感あるので、まあ一応そんな感じで…

(特に解析幾何学・デカルト座標は、「心身問題」の議論を活発化したデカルトが、
 その「身」の面=物質サイドを統一する目的で出来上がったものなので、非常に関係性が深そうだったり。)

中盤は、「心身問題」に対する「問い掛け」をイメージして制作しました。内容的には上に書いたようなものです。英文も。
クライマックスには上のような現代我々を取り巻く科学分野を統合させた形で進めていきますが、結論は出ないままで終わって行きます。
ただ、個人的には「結論が無い」と言うのもある意味で重要な現代社会のファクターなのではないかなぁ、なんて。

もしこの問題に結論、回答が用意されて、我々の存在価値、存在理由が明確に決定付けられたのならば、
我々はその存在価値、存在理由に対して絶望するかもしれない。
そのため、「問い掛け」は数学的には無価値なものだと思うのです。結論が一つに定まらないために。
しかし、その「問い掛け」を「熟考する」ことへの価値は、今まで書いてきたように測り知れないモノがあり、
その「熟考した」けれども「答えの出ない」ことへの価値、「答えの出ない」ことにより広がる社会、現代をクライマックスでは描こうとしました。

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取り敢えず、ここまで読んでくださり本当に有難うございます。

よろしければ、この文章を読んだ後に、もう一度作品を見ていただければ、これ以上幸せなことはありません。
「ああ、ここはこうなんだなあ」と違う目線で、二つの印象で作品を見ていただき、その差異も楽しんでいただければ幸いです。


最後に、本作を作る上で参考としたwebページや文献等を。

心の哲学・心の科学への十五分ツアー 1,23,4,56,7
wikipedia: 心の哲学心身問題機械論唯物論クオリア

文献:
「デカルト入門」(小林道夫、ちくま新書)
「考える脳・考えない脳―心と知識の哲学」(信原幸弘、講談社現代新書)
「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一、講談社現代新書)


長くなりました。それでは。
2007/11 eau.

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